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絶対零度の九条姉妹(目次)



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絶対零度の九条姉妹 第十五話・懲罰


 伸二に腕を掴まれてバスルームまで引っ張られていく途中、香澄は何度もその場に崩れ落ちて無駄な抵抗を繰り返した。そのたびに怒鳴り付けられて無理やり立たされ、力尽くで強引に引き立てられていく。
 浣腸の恐怖ですすり泣く香澄は、空のバスタブの底に仰向けで押さえ付けられ、両足を折り畳まれて顔の横に固定された。
 まんぐり返しの香澄の姿勢は、姉の香織が盛大な脱糞ショーを繰り広げた時の格好そのままだった。その体勢を香澄に強制している伸二が、どこまで自覚してやっているのかは分からないが、香澄にとってはこれ以上なく屈辱的な格好だった。これから、自分が陥れた姉の目の前で、あの時の姉と同じ様な醜態を晒すことになるのだ。冷たいバスタブに接している背中にゾクリと怖気が走った。
 伸二に押さえ付けられたまま、キョロキョロと落ち着きなく視線を動かしている香澄の顔には、もはや冷酷な天才少女の面影はほとんどない。今はただの哀れな少女でしかなかった。
「し、伸二先輩。浣腸は、浣腸だけは許してください」
「いい加減に諦めなさいよ。見苦しいにも程があるわ」
 香澄の哀願に返事をしたのは、伸二ではなく香織だった。セーラー服を着直した姉の手には、ノズルを取り外したシャワーホースが握られていた。先端からはおびただしく水が流れ出しており、ビチャビチャとバスルームのタイルに音を立てている。あんな量を腸内に注ぎ込むつもりなのかと、香澄は身震いするほどの戦慄を覚えた。薄ら笑いを浮かべている姉の顔が、より恐怖感を増幅させる。
 シャワーを向けられて冷水を下半身に掛けられると、香澄は「ひあっ!」と上擦った声を漏らした。
「あら、驚いちゃった? ごめんね、香澄」
「つ、冷たい。こんなの、駄目。浣腸はぬるま湯じゃないと……」
「そんなことは私の知ったことじゃないわ。苦しむのは香澄、貴女だけなんだから」
「そ、そんな……」
 絶句する香澄に向かって、身体を押さえている伸二が言葉を掛ける。
「どうやら、香織は本気でお前にハメられたことを怒っているようだな。一生懸命 謝って許してもらえば、少しは水を温かくして貰えるんじゃねえの?」
 他人事のように言い放つ伸二に苛付きを覚えたが、香澄はその通りにするしかないと判断し、涙目で姉を見上げた。
「お、お姉ちゃん、あの時はゴメンナサイ。私も脅されていて、ああするしかなかったの」
「ふうん。それにしては、あの下剤の威力は尋常ではなかったけれど?」
「そ、それは、伸二先輩が指定した下剤だから仕方なく……」
 出鱈目を言って誤魔化そうとすると、伸二が横から口を挟んでくる。
「おいおい、俺はそんなこと言ってねえぞ。大体、俺に薬剤の種類なんて分かるわけがないだろう」
「ちょ、ちょっと伸二先輩は黙ってて下さい!」
「あー、はいはい」
 まんぐり返しというきつい姿勢に加えて、浣腸される恐怖に怯えている今の香澄には、一切の精神的余裕が消え失せていた。
「お腹の中を絞り上げられる激痛を、あんたも味わってみなさいよ。汚いものを吐き出してその身に受け止める屈辱もね」
「ま、待って! それだけは嫌っ! 四つん這いでも何でもするから、せめてこの格好だけは許して! 水もちゃんと温めて! あとお尻の穴が傷付かないように丁寧にして!」
「我が儘すぎでしょ……。そろそろ黙らないと、お姉ちゃん怒るわよ?」
 香織は呆れ返りながらシャワーホースを香澄の肛門に当てた。冷たい水が香澄の尻に流れていく。
「ひいいぃ……」
 冷水浣腸を逃れ得ないことを悟り、香澄は心底から恐怖に震えた。冷たい水を腸内に流し込まれれば、一体どれだけの苦痛が待っているか、想像すら付かない。姉や伸二がそう簡単に排泄を許してくれるとも思えず、とてつもない地獄が待っていることは疑う余地がない。
 しかも、排便すればそれで全てが終わるわけではない。糞便にまみれた姉の姿は今でも覚えている。あの惨め極まる姿に自分もなるというのか……。
「うっ!」
 ホースが尻穴に押し込まれると、冷水が直腸に殺到した。あまりの勢いの強さに香澄は目を見開いた。
「ひ、ひいっ。強いっ! 強すぎる! お姉ちゃん、もう止めて!」
 怒涛の勢いで流れ込んでくる水は、みるみるうちに腸内を満たし、香澄の腹を少しずつ膨らませていく。  冷水がキリリと腸粘膜を刺激し、生まれて初めての鋭い痛みが香澄を襲った。
「う、うぐぅ……」
「いま一リットルくらい入ってるかな?」
 香澄の呻きをまるで気にすることもなく、香織はどこか楽しそうに妹を見つめていた。
「い、一リットルなんて軽く超えているから……。だから、早く止めて……」
「ん? いや、まだ微妙に一リットルに達していないような気がするわ」
「そ、そんなこと、ないから」
「そう? うーん……」
「す、少なくとも、そうやって考えている間に一リットルは超えているから……」
「かも知れないわね」
「じゃ、じゃあ、早く……」
「うん? なに? 一リットル入ったんだなあっていう、ただそれだけの話だったのだけど?」
「ぐ、ぐぎぎ……」
 冷水浣腸がまだ終わらないことを知り、香澄は瞳に涙を溢れさせた。その涙は、苦痛によって勝手に溢れてきたモノだけではなく、調子に乗っている姉に対する悔し涙も含まれている。
 近いうちに必ずやり返してやろうと心に誓いながら、香澄は慈悲を求めるべく姉に向かって悲痛な表情を向けた。
「お、お願い。もう耐えられないの……。お、お姉ちゃん、許して……」
 心の内で復讐を誓ってはいるが、言葉自体に嘘偽りはなかった。
 伸二の手によって強制されているまんぐり返しの格好は、内部から膨張している腹を強烈に圧迫し、香澄に耐え難い苦痛を強いていた。
 まるで拳ほどの大きさをした寄生虫が腸管を動き回っているかのような、そんな尋常ではない激痛が腸内を駆け巡っている。際限なく冷水が肛門から押し寄せてくるため、その痛みは治まることなく香澄を苦しめ続ける。
「お、お姉ちゃ……んぐ……」
 猛烈な吐き気が込み上げてきて、香澄は慌てて口を閉じた。まんぐり返しの姿勢によって、膨れ上がった腸が胃に圧力を掛けてしまっているのだ。
「し、死ぬ……。ほ、ほ、本当に死ぬ……」
 なおも流れ込んでくる冷水の感覚がどうしようもなく絶望を呼び起こし、真面目に死を予感させるほど香澄を追い込んでいった。
 腸管がはち切れそうなほどの冷水の圧力に、腸粘膜が激烈な痛苦を脳髄に向かって訴えてくる。そのあまりの激烈さに、香澄の精神は無惨に磨り減らされていく。
「すごいわよ、香澄。妊婦みたいにお腹が張っているわ。人間って浣腸だけでこんな風になるものなのね」
 本当に感心しているのか、香織が膨れ上がった腹を撫で回してくる。
 香澄は自分の腹に目をやって、「ひいっ」とかすれた声を漏らした。地獄のような激痛に苦しみ悶えている間に、いつの間にか見るに耐えないほど腹部が膨張している。あまりにも異常な光景だった。排泄すれば本当に元のか、そんな不安すら覚えてしまう。
「おね……ちゃ……ぁ……ぇて……」
 もうまともに言葉を発することも出来なかった。手足の感覚が妙に薄く、痺れたようにピリピリと不快な感覚だけが残っている。自分の身体ではないような違和感が全身にしているというのに、腸内の激痛だけはハッキリと伝達されてくるのが恐ろしくてならなかった。
「そうね。そろそろ止めてあげようかしら」
「ぁ……ぁぁ……」
 ようやく冷水を止めてくれる。そう思うと、姉の慈悲深さに後から後から涙が溢れてきた。薄っすらと笑みを浮かべながら見下ろしてくる香織が、まるで神に遣わされた天使のように神々しく見える。
「香澄、どうなの? 止めて欲しいの?」
 いちいち分かり切ったことを聞くなと思いながらも、香澄は気力を振り絞ってコクコクと頷いた。
「そう、止めて欲しいのね」
 わざわざ確認するように呟く香織に、切羽詰っている香澄の心がざわめいた。モタモタするな、と言いたいのを必死の思いで留める。
「ねえ、伸二。香澄がそろそろ浣腸を止めて欲しいそうだけど、止めてもいいかしら?」
 諦観者に徹して香澄を押さえているだけだった伸二に、香織は聞かなくてもいいことをあえて尋ねた。そうしている間にも、冷水がドボドボと尻穴に雪崩れ込んでくる。
 姉の暢気な態度に香澄の感情が爆発した。
 が……。
「くひゅっ」
 グズグズしていないでさっさとシャワーを抜いて! 確かにそう言おうとしたのだが、喉の奥から空気の掠れるような音がしただけだった。
 まんぐり返しの格好で無様に膨れ上がった腹を晒し、たったひとつの文句すら言えないこの身の哀れさに、また涙が溢れ返ってくる。
「まあこの辺が限界だろうな。つーか、とっくに限界超えてるような気もするが」
 伸二はどうでも良さそうに良いながら、香澄の足から手を離してバスタブを出た。
 足が自由になってもまんぐり返しの姿勢は崩れなかった。バスタブの内壁に背中がもたれ掛かっている上に、下半身の重心が頭側に寄っていては、自分から動かない限り姿勢が変わることはない。
 満足に身体を動かせない今の香澄は、黙って尻穴を真上に向けたまま、ブルブルと小刻みに震えていることしか出来ないのだ。
「じゃあ、抜いてあげるわね、香澄」
 膨張した腹を撫で回しながら、香織はワザとらしく優しく語りかけた。
 泣き腫らした目で香澄が姉を見上げると、香織が蛇口をキュッキュと回しているのが目に入った。数秒の時間差を経て、激しい勢いで注入されていた冷水が止まった。
 安堵のあまり、身体中から力が抜ける。香澄はその時初めて、全身を必要以上に強張らせていたことに気が付いた。
「ぁ……」
 脱力と同時に排泄が始まる。
 直腸深くまで突っ込まれていたシャワーホースが、強力な便圧に押し上げられて肛門から飛び出した。
 開放された尻穴から、溜まりに溜まった腸内の冷水がブビュウゥッと激しい音を立てて噴出する。
「う、うおおっ!」
 伸二が慌ててバスタブから距離を取った。
「きゃあっ!」
 飛び出したホースが空中で踊り狂い、香織の太ももを打ちすえる。驚いて尻餅を着いている間に、香織は大噴射の範囲内から逃げ出す時間を失った。
 香澄の肛門からは、香織と伸二の予想を遥かに超える勢いで排泄物が噴き出していた。最初は透明だった冷水は、すぐに茶色く濁って下痢便の様相を呈してくる。
 高級感漂うバスルームの天井近くまで液便が噴き上がり、高価そうなバスタブやバスタイルが糞便に塗れていく。
「ああっ! ちょ、ちょっと!」
 バスタブの隣で尻餅を着いている香織は、まともに糞便を浴びせ掛けられて動けなくなってしまった。黒いセーラー服がベトベトに汚れていく。反射的に手で顔を庇うが、全身が汚物に塗れてはほとんど意味がなかった。  周囲に拡散する排泄物は、苦痛に喘ぐ香澄の顔にも落下する。が、腸内を轟く凄まじい衝撃と、尻穴が燃えているかのような激痛のせいで、汚物への嫌悪を感じている余裕はない。排出の勢いが強すぎて、腸粘膜と肛門が悲鳴を上げているのだ。
「は、あ……あぁ……」
 いくら力を入れても、香澄の意思では下痢便の噴出を止めることは出来なかった。時折り勢いが弱まってきたと思っても、すぐにまたブボォッと強烈な噴射を再開してしまう。
 尿道口からは小水が迸っていた。濃厚な黄色に染まった汚水が、香澄の上半身を濡らして顔面にまで降り掛かってくる。
「ぅぶっ……ごぷっ……」
 糞尿が口の中にまで入ってきて、香澄はたまらず咳き込んだ。
「む……ぐぅ……」  地獄だった。腸内が荒れ狂い、尻穴が熱く腫れ、上半身は猛然と込み上げてくる吐き気に苦しめられる。
 いくら排便しても腸粘膜は蠢動を続け、内臓を掻き回されているかのような鈍痛と不快感が押し寄せる。
「あぐ……う、ぐぅ……」
 肛門はブビュッブジュッと一定の間隔でポンプを握り込まれているように液便が噴き出しいる。そのうちの数回に一回は、ブボボォォッと大量に汚物が噴き上がる。
 その一際大きな噴出が何よりも辛かった。糞便を猛烈な勢いで吐き出し続けている尻穴が、断続的に続く水流の摩擦で酷く腫れ上がり、カッと発火するのではないかと思えるほど熱く鋭い痛みを訴えてくるのだ。際限なく大きくなってくる激痛が恐ろしくて仕方がない。
「ぁ……あぁぁ……」
 強烈な吐き気と戦いながら腹の中の冷水を出し切ると、未だパクパクと口を開閉させている肛門から、ブブーッと盛大な屁が放たれた。下品な音が轟いてバスルームに響き渡る。
「い、いや……」
 弱々しい香澄の呟きに、糞便に塗れた香織が反応する。
「何がいや、よ。これだけ汚い物を撒き散らしておいて」
「うぅ……」
 まんぐり返しで息も絶え絶えの香澄に対しても、香織はあくまでキツイ態度を崩さない。
「私にまで掛かってきたじゃないの。制服がベトベトじゃない。どうしてくれるの」
「うっう……」
 シクシク泣いている香澄の尻穴から、またブビュッと液便が噴き上がった。量は少なく勢いも弱かったが、ヒクヒクと蠢く肛門は、時折りプスッと小さな放屁音を発している。
「まだ治まらないの? いい加減にしてよ、臭いじゃない」
「……うっ……うう……ひぅ……」
 さすがに香澄も、この状況では言い返せずにさめざめと泣くことしか出来ない。肛門はまだ熱く腫れ上がっているし、腸内は痛みこそ小さくなったものの、ギュルギュルと不気味に唸っていて、いつ便意と激痛がぶり返すのかと気が気ではない。
「もう嫌……いやだよ……助けてよ、お姉ちゃん……」
 弱気の極致に達して、香澄は自分から姉にすがり付いてしまう。
「なにを甘えたこと言ってるの、香澄。まだ一回目の浣腸が終わっただけじゃない。あと二回分が残ってるわよ」
「おいおい、そんなこと俺言ったか?」
 呆れたような伸二の声に、香織は当然のことのように言い放つ。
「これから言うのよ。さあ、伸二。あと二回浣腸するって言いなさい」
「なんでだよっ!?」
「いいから言いなさいよ。無能のあんたでも、舌を動かすくらいは出来るでしょう?」
「……おめえ、自分の立場を忘れてねえか?」
「なによ。あんたの顔を立てて命令させてあげようとしてるんじゃない」
 本当に自分の立場を忘れている香織だった。
「チッ。勝手にしろ」
 興醒めした伸二がバスルームを出ていく。
 香織はニヤリと笑みを浮かべて香澄に向き直った。
「ねえ、聞いた? 勝手にしろだって。つまり、何回でも浣腸してやれってことよね?」
 身体に力が入らずマングリ返しの姿勢を続けていた香澄は、ブルブル震えながら香織を見上げた。
「あぁ……」
 まだ地獄が終わらないことを悟り、諦めたように吐息をはく。
「まずはこの汚れを落とさないとね」
 香織はシャワーを手に取ってキュッと蛇口を回した。その音に反応して、香澄の身体がビクリと跳ねる。
「あれ? トラウマになっちゃってる? 安心しなさい。まだ大丈夫よ。とりあえず、あんたのウンチを洗い流すだけだから」
 姉がセーラー服の上からシャワーを浴びると、温かいお湯の飛沫が香澄にも掛かってきた。
「あう……」
 下半身を温めてくれるお湯の感触が心地良かった。少しでも汚い身体を洗い流してくれるのが心底有り難い。
「あんたもシャワーを浴びたいの? しょうがないわね……」
 シャワーのノズルを向けられ、温かいお湯を全身に掛けられる。心まで洗われるかのような爽快感に、少しずつ気力が戻ってくる。
 香澄の身体を伝って排水溝に流れていくお湯は茶色く変色していたが、全身が温まってくる頃には綺麗な透明色になっていた。
「ちょっとくらいは動けるようになってるでしょ? こっちへ来なさい、香澄」
 セーラー服を脱いで下着姿になった香織が、丸イスに腰掛けて香澄を手招きしている。
「……う、うん」
 香澄は手を着いてまんぐり返しの姿勢を崩し、ゆっくりと立ち上がった。肛門がヒリヒリと痛み、腹にもざわめくような違和感があったが、なんとか我慢できない程ではない。
「ほら、ここに座りなさい」
 香織が目の前にあるもうひとつの丸椅子を指差した。
「……うん」
 迷った末に、香澄は姉に背を向ける格好で椅子に腰を下ろした。
「やっぱり、まだちょっと臭うわね。目、閉じてなさい」
「…………」
 香澄が言われた通りに目を閉じると、頭上からシャワーを浴びせられた。不意に懐かしさが込み上げてくる。温かいお湯が心にまで染み渡るような気がした。
 こうして姉妹でお風呂に入るのは十年ぶりくらいだろうか、と香澄は柄にもなく感慨に耽った。
 二人ともあの頃から非凡な才能を有していたが、まだ子供の域を越えるようなことはしていなかった。両親が呆れるほど姉妹仲がよく、何をするにも一緒に行動していたものだった。それがいつの頃からか、お互いの才能と立ち位置がはっきりしてくると、だんだん疎遠になっていった。
 頭脳派の香澄と、行動派の香織。方向性の全く違う才能だからこそ、最初は素直にお互いの能力を評価し合っていた。だが、長いあいだ顔を会わせないうちに、それぞれが専門分野で多大な実績を築き上げていき、未知の分野の才能を見下すようになっていった。
 香澄は自分の方が優れた能力の持ち主だと信じて疑っていなかったが、姉の方もまた自分という存在に絶対の自信を持っているようだった。
 そういう気持ちは得てして相手に伝わり易いもので、お互いの感情が作用し合って負の方面へ変化するのにたいして時間は掛からなかった。プライドの高さ故に歩み寄ることも出来ず、今日まで至っている。
「…………」
 お湯で背中を流してもらいながら、香澄は後ろの姉の様子を窺った。香織はさっきからずっと無言で香澄の身体を洗い流している。ひょっとしたら、自分と同じように、十年ほど前に二人でお風呂に入った時のことを思い出しているのかもしれない。けれどもきっと昔のようには戻れないだろう、と香澄は思った。関係を修復するには色々なことがありすぎた。姉もそれが分かっているからこそ声を掛けてこないに違いない。
 二人揃って伸二の言いなりになるしかない今ならば、あるいは傷の舐め合いくらいなら出来るかも知れない。しかしそんな関係はお互いのプライドが許さないのだ。
「さあ、綺麗になったわ。もう一度浣腸するから、こっちを向いて私の膝の上に腹這いになりなさい」
「……うん」
 姉は妹を抱き締めたりはせず、冷たい関係を続けるつもりのようだった。それについては香澄も異存ない。結局、それぞれ自分こそが最上だと信じている限りは相手を否定しなければならず、どうしたって仲良くすることなんて出来ないのだ。
 ただし、香澄は黙ってやられているつもりはない。
 今は大人しく従う他ないが、近いうちにきっと姉を自分以上の地獄に叩き落してやろう。香澄はそう心に誓いながら、姉の膝の上に腹を乗せて四つん這いになった。
「下の毛、生えていないじゃない。昔と同じね……」
 香織のその言葉に、やはり姉も十年前のことを思い出していたのだと香澄は確信する。同時に顔がカッと熱く火照った。高校一年生にして無毛というのはさすがに恥ずかしかった。
 チラリと姉の股間に目をやると、黒々とした陰毛が視界の端に入った。十年前は姉も割れ目を隠すものは何もなかったが、やはり昔とは色々と違うらしかった。
「お尻の手触りも子供みたいにスベスベしているわね。こういうのを卵肌って言うのかしら?」
「……知らない」
 香織に尻を撫で回されてもそれほど不快ではなかったが、いつ浣腸されるのかとそればかりが気になってしまう。
「大分お尻の穴が赤く腫れ上がっているわ。見ているだけでこっちまで痛くなりそう」
「だったら止めれば?」
「そういう訳にもいかないのよね。まだあの時のお礼が済んでいないし」
「もう浣腸したでしょう」
「一回やられたことを一回では返したことにはならないわよ。報復三倍原則は九条家の基本よ」
「聞いたことないよ、そんなの」
 話をしている間も姉は香澄の尻を撫で回していた。
 姉の膝の上で腹這いになっているのは、まるでお尻叩きを受ける格好のようで、香澄は内心でこの姿勢に恥辱を感じていた。
「安心しなさい。今度はお湯にしてあげるし、適量に抑えてもあげるから」
「ふうん? 今さら罪悪感でも湧いてきた?」
 ホッとしたのを悟られまいと、つい憎まれ口をたたいてしまう。
「まあさすがに死なれては面倒だからね」
「…………」
 せめて死なれては寝覚めが悪い、くらいのことを言えないのだろうか、この姉は。
「じゃあ、二回目の浣腸、いくわよ」
「……うん」
 返事をすると、すぐにシャワーホースが肛門に押し入ってきた。先ほどの言葉通り、先端から流れ出ているのはぬるま湯だった。
 腫れ上がっている尻穴にもう一度ホースを突っ込まれたらどうなるか不安だったが、ピリリと軽く痛みが走るだけで受け入れることが出来た。思いの外ゆっくりと捻じ込まれているためだろう。
 慎重さすら感じられるほど丁寧に、シャワーホースが腸奥まで埋め込まれる。
「どう? あんまり痛くはないでしょう?」
「う、うん」
 先ほどの浣腸と比べれば、子供の遊戯のように緩やかな水流しかなく、心地良さすら感じられるほどの余裕がある。
 冷水で荒れた腸粘膜に微温湯が染み渡って、冷え切っていた身体が温まっていく。
「そろそろ出そうかしら?」
「え? あ、う、うん」
 まだそれほどの便意を感じてはいなかったが、浣腸をやめてもらえるのならばそれに越したことはないと思い、香澄はコクコク頷いた。
「そう。じゃあ、力を抜きなさい」
 ゆっくりホースが抜かれていく。
「あ、ん……」
 細く軟らかい管を少しずつ引き抜かれ、肛門付近はジンジンと痛んだが、腸奥は軟らかい一本グソを捻り出すような感覚がして、股間がジュンと切なく疼いた。
 熱っぽい吐息を漏らしてしまい、直腸で感じたことを姉に悟られたかどうか気になったが、少なくとも表面上の態度からは姉の感情を読み取ることは出来なかった。
「あ……ああ……」
 ホースが抜かれると不思議と便意が強まってきた。我慢できない程ではないが、ギュウッと腸を握られているかのような腹痛が、これからどこまで強くなるのか不安で仕方がない。
「どうせ出さなければならないのだから、すぐ出しちゃいなさい、香澄」
「う……で、でも……」
「手間の掛かる子ね」
 香織に腹を擦られると、なぜか我慢出来なくなってしまう。肛門近くまで糞便が下ってくる。
「ああう……もう出そう……」
「いいわよ、出しなさい」
「うう、だ、駄目。出る、出ちゃうっ……」
 尻穴から液便が噴き出した。大量浣腸の後のため、排泄物とは思えない程ほとんど透明色をしているが、よく見ると若干ではあるが茶色掛かっている。
 突き出している尻から真横に飛沫が飛び、バスルームの壁に当たってビチャビチャと音が鳴る。
「う、うう……」
 姉の膝の上で排泄をする屈辱に、悔し涙が頬を伝う。香織はその零れ落ちる雫を指先ですくい取った。
「大丈夫よ、もう終わったわ。注入したお湯も少なかったから、出る量も大したことなく済んだのよ」
「ひうぅ……ううっ……」
 安堵のあまりポロポロと涙が止まらなくなる。
「三回目の浣腸はやめておきましょうか。私もなんだか疲れちゃったわ」
 温かいシャワーで香澄の下半身を洗い流しながら、香織が優しく話し掛けてくる。
「…………」
 香澄は泣き濡れながらも強烈な違和感に纏わり憑かれていた。
 冷酷非情な姉がなぜここまで遠慮をしてくるのだろうか? まさか突然 姉妹愛に目覚めたわけではあるまい。ならばと思考を巡らせると、香澄はすぐに答えに辿り着いた。
 姉への復讐を心に誓ったことを悟られたのだ。だから、こうやって自分の牙を削ぎ落とそうと心の隙間に入り込もうとしている。そうに違いない。
「…………」
 恐ろしい姉だった。少しでも隙を見せたら喉元を喰い千切られてしまう。
 香澄はそれに気付いたことを悟られないように細心の注意を払いながら、弱々しい表情を浮かべてボソリと小さく呟いた。あくまでも相手に聞こえるように。
「ありがとう、お姉ちゃん」



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