第四話・夜襲

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 戦いは王国軍の勝利に終わった。
 最初のうちこそ正面からぶつかり合っていた両軍だが、アンジェリカは全軍を指揮統率しながら巧みに陣形を操り、短時間で盗賊を包囲してしまったのだった。
 不正規兵でしかない彼ら盗賊は、一度崩れ始めると早かった。指揮系統はすぐに崩壊し、そこからは王国軍による一方的な攻撃が始まった。
 盗賊たちは先を争うようにして降伏の意を示した。

 戦闘を終えてテントに戻ったアンジェリカは、王都から運んできたお気に入りの椅子に腰を下ろした。
「アンジェリカ様、捕虜の武装解除は全て終了致しました」
 百人隊長ダールトンが丁寧に頭を下げる。もともと彼は慇懃な姿勢を保っていたが、ここにきて、上官に対する敬意をも態度で表すようになっていた。  軍隊内で部下を従えるのに最も有効な方法は自らの力を示すこと。何度も経験してきたことではあるが、アンジェリカとクルルはそれを再認識した。
「ご苦労様です、ダールトン隊長。今日はもうお休みください」
「では、失礼致します」
 ダールトンが設営テントを出て行き、クルルと二人きりになると、アンジェリカは脱力して椅子に背を預けた。
「疲れた……」
「あまり格好を崩さないでください、姫様。今は私しかいませんけれど、いつ誰がテントに入ってくるかわからないんですよ?」
「むー」アンジェリカは頬を膨らませた。「クルル、私も休みたいんだけれど」
「駄目です。まだ残務整理が残っています。戦況報告書の仕上げは今日中に終わらせておきましょう。部下よりも多くの仕事をこなすのは上官の勤めです。翌朝にこれを見た百人隊長たちは、姫様への信頼感をより深めることでしょう」
「もー……」
 唇を尖らせながらもアンジェリカは書類に目を通し始めた。

 夜。事務処理がもう少しで終わりそうだというところで、アンジェリカとクルルは顔を見合わせた。テントの外から聞こえてきた喧噪が二人の手を止めたのだった。
「いったい何でしょうか、姫様」
「また兵士たちが宴会でも始めたんじゃないの?」
 そう答えながらもアンジェリカは釈然としないものを感じていた。先ほどまで確かに兵たちは騒いでいた。勝利の余韻に浸ってか、飲めや歌えやの大騒ぎだった。しかしそれもやがては静まり、テント内に騒音が聞こえてくることもなくなっていた。騒ぎ疲れて兵たちは眠ってしまったのだろう。なのに、今のこの喧噪はどうしたことだろう。眠っていた兵たちがまた起き出して宴会を再開したというのだろうか。それは少し不自然なように思える。
「うーん、どうも気になるわね」
 ちょっとだけテントから顔を出して様子を見てみようかと思い、アンジェリカは椅子から立ち上がろうとした。
 その矢先、兵の一人がテント内に転がり込んできた。中年の男だった。服装を見れば彼が伝令兵であることが分かる。
 男は、かすれるような声で言った。
「て、敵襲! 敵襲です! 敵襲!」
 興奮しているようで、何度も同じ言葉を繰り返していた。
 アンジェリカは中腰のまま固まっていたが、我に返ると直立して表情を引き締めた。
「落ち着いてください。敵の数は?」
「ひ、ひとりです!」
「ひとり?」
 予想外の言葉に首を傾げた。
 代わってクルルが質問する。
「各百人隊長に連絡はしていますか?」
「で、伝令はもう出しています。し、しかし、すでにアルフォンス百人隊長が討ち取られ……」
 声が震えている。そのせいで聞き取りづらかったが、指摘したところで改善されることはないだろう、とクルルは思った。そんな無駄なことをするよりも、少しでも彼が落ち着くよう、まず自らが冷静な態度を示すべきだ。
 クルルは内心の焦りを押し隠し、努めて平静を装いながら聞き返した。
「アルフォンス百人隊長の戦死は確かなことなのですか?」
「わ、私がこの目で確認しました。とにかく鬼神のような強さで、次々に味方が……。は、早く逃げないと……ここにも敵が……」
 話すことで恐怖心が蘇ってきたのか、伝令兵はその場に座り込んでしまった。
 クルルはアンジェリカに向き直った。
「姫様、これはもしや――」
「戦の前にクルルが言ってた百人斬りの盗賊ってやつ?」
「かもしれません」
「本当の話だったとはねぇ」
「…………」
 クルルが見たところ、アンジェリカは随分と落ち着いているようだった。どころか、たったひとりで乗り込んできた敵に感心しているようにも見える。器が大きいのは結構なことだが、今は目の前の危機に対処しなければならない。
「とりあえず身を隠しましょう、姫様。このテントは目立ち過ぎます。敵が総大将を狙っているのだとしたら、ここに向かってくるはずです。ただちに逃げませんと」
 クルルに何か言い返そうとアンジェリカが口を開きかけた時、別の伝令兵がテントに飛び込んできた。
「報告します! ホーク百人隊長、戦死! ロウ百人隊長、戦死! 十人隊長にも多くの戦死者が出ている模様! 敵軍はただひとり! 我が軍勢をなぎ倒しながら、こちらのテントに接近しています!」
 地面にへたり込んでいる最初の兵とは違い、二人目の伝令兵はなかなかに肝の据わった人物らしかった。言葉をはっきりと聞き取ることができる。
 彼は、まだ20を少し過ぎたばかりの若者だった。将来は大物になるかもしれない。
「ホーク百人隊長とロウ百人隊長は本陣の東側にいたはずですよね。アルフォンス百人隊長も。とすると敵はやはり東側から来ているのですか?」
「はい。正確には北東方面からです」
「分かりました。姫様はこれから、西側で野営しているダールトン隊と合流します。あなたも護衛として同行してください。所属部隊に戻る必要はありません」
「かしこまりました」若い伝令兵は決意を込めた表情で言った。「もしもの時は私の身をもってアンジェリカ様の盾となります」
「……よろしくお願い致します」
 クルルは深く頭を下げた。伝令兵は自分の意図を読み取った上で従うつもりのようだった。たかが副官の命令に従う義務はないのにもかかわらずである。感謝する他はない。王都に戻ったら充分に報いるよう後で姫様に進言しよう、とクルルは心に誓った。
「逃げ出す暇はなさそうよ、クルル」
 アンジェリカは北東を凝視していた。テント内から外の様子を見ることはできないが、兵士たちの怒声や悲鳴が近付いていることから、すぐそこまで敵が迫っているだろうことが分かる。
「そんな、早すぎますっ」
 クルルの胸中は後悔に押しつぶされそうになった。状況把握など後回しにすべきだった。異常に気付いた時点でこの場を離れていれば、今頃は……!
「姫様」
「そんな不安そうな顔をしないで、クルル。やれるだけのことはやってみるわ」
 アンジェリカは弓矢を手に取った。
 短時間に百人隊長を3人も討ち取るような者を相手に、弓ひとつで何ができるのだろう。そう思ったがクルルは何も言わなかった。
「来ます!」
 声を上げたのは、若い伝令兵だった。勇敢にも彼は、剣を抜くと、数歩ほど後ずさって、テントの中央辺りで身構えた。
 直後、テント内に突風が吹き込んできた。入り口近くに座り込んでいた中年の伝令兵から、血飛沫が上がる。野営陣地に単独で突っ込んできた恐るべき敵によって斬られたのだが、速すぎてクルルは敵の姿を視認できず、風に切り裂かれたようにしか見えなかった。
 暴風は勢いを失うことなく、中央で構えている若い伝令兵にも向かった。
「くっ……!」
 伝令兵は横に身を反らした。一瞬前まで彼の身体があった空間を、疾風が駆け抜ける。
 ここにきて、ようやくクルルも敵の姿を目に捉えることができた。武器を振り下ろしてから次の行動に移るまでの間でしかないが、とにかくもクルルは初めて敵の特徴を知るところとなった。
 敵は、小さな少女だった。小柄なクルルと同じくらいの背丈しかない。ひょっとしたらクルルより幼いのかもしれない。柔らかそうな頬がそう思わせる。
 幼い顔立ちに似合わず彼女は無感情な顔をしていた。ここに来るまで数え切れないほどの兵を斬ってきただろうに、鬼気迫った表情をしているわけではなく、戦いを楽しんでいる様子でもなく、ただただ黙々と作業をこなしているかのようであった。
 彼女が右手に持っている武器は、体格相応の小さな剣だった。通常の小剣よりもさらに短く作られており、少女自身の腕と同じくらいの長さしかない。細腕の女の子が片手で扱うには適しているだろうが、図抜けた力を持つ者が使うような武器にはとても見えなかった。
 しかし血塗れの刃先が主観を否定する。少女はその小さな腕で、同じく小さな剣を振るい、大勢の兵を斬り捨てたのだ。
 少女は、若い伝令兵に顔を向け、一歩前に出ると、何の予備動作もなく小剣を突き出した。
 クルルには全く見えなかったが、伝令兵は剣先を目で追うことができたらしく、後ろに下がることによって、なんとか神速の剣閃を回避した。しかし、彼は一切の余裕もなく力任せに後退したようで、引っ張られるようにして身体が後ろに傾いた。
 対する少女は悠々と剣の勢いを殺し、突き出した手をぴたりと止めた。間を置かず、伝令兵の首筋に向けて横薙ぎを放つ。
 一撃目は囮で、おそらく最初から二撃目で仕留めるつもりだったのだろう、とクルルは思った。
 剣筋がまるで見えなくとも、二人がその場に留まったまま戦っている間ならば、何が行われているかくらいは見極められることができた。
 戦闘の素人であるクルルにも少女の意図がわかるくらいだから、伝令兵もそれくらい承知しているに違いない。もしかしたら、一撃目の時点で読めていたのかもしれない。だが少女の剣は速すぎた。たとえ体勢を崩すことになろうとも、全力で避けるしかなかったのだ。
 とはいえ、一太刀では仕留められないと少女に思わせたことは称賛に値すべきろう。少女はここに来るまで無数の兵を一撃のもとに葬り去ってきたに違いないのだ。テントに到達するまでの速度を考えればそれが自然だ。
 少女の攻撃を避けたのは、この伝令兵が初めてなのかもしれない。彼は、度胸がすわっているだけでなく、剣の腕においても並外れていたのである。
 しかし、こればかりは相手が悪かった。一撃目の突きをなんとか躱した伝令兵だが、二撃目の横薙ぎにはほとんど反応できなかった。少女の腕が伸びきったのとほぼ時を同じくして、伝令兵の首は胴から断ち切られた。
 彼の頭部は背中側から転がり落ちていった。
「……っ!」
 クルルは思わず目を逸らした。
 恐ろしくてならなかった。これから自分も同様に殺されるであろうことも恐ろしいが、才気に溢れた伝令兵が一瞬で絶命させられてしまったという事実がなによりも恐ろしかった。
 軍が窮地に陥っても動じることなく伝令の役目を果たした精神力も、血の滲むような努力によって得られたであろう身体能力も、一瞬で無に帰してしまったのだ。
 将来性豊かだった彼は、入り口近くで倒れている無能な伝令兵と、今や立場を同じくしている。ただの死体。死体には精神力も身体能力もない。どれだけ有能であろうとも、死んでしまえばそのすべてが無となる。その現実を目の当たりにしてクルルは恐れを抱いたのだった。
 人が死ぬ場面自体は戦場で数え切れないほど見てきたが、抜きん出た才覚をあっさりと刈り取られる様を目の前で見たのは初めてであった。
「姫様……」
 無意識に呟く。クルルは常人と変わりなく自分の命を惜しんでいたが、むろんそればかりを考えているわけではなく、自分の身と同等以上にアンジェリカのことを案じていた。
 軍才の塊であり、反体制派の旗頭となるべき姫が、こんなところで無力な死体にされてしまうというのだろうか。そこで転がっている伝令兵の首と同じように……?
 クルルは打ちひしがれた。他にできることはなかった。
 だがアンジェリカは違った。クルルが敬愛する戦姫は、この状況においても絶望することなく勝機を窺っていた。
 奇襲を仕掛けてきた少女がどれほど無類の強さを誇ろうとも、人間の心理と無縁でいられるはずはない。手練れの伝令兵を仕留めた直後の少女には、これまでよりも隙ができているに違いなかった。ほんのわずかなものでしかないだろうが、アンジェリカはそこに賭けて矢を放った。
 狙いは正解だった。少女はまだ伝令兵の方を向いている。ぎりぎり少女の視界に入っているのかもしれないが、反応は明らかに遅れた。こめかみを矢が貫こうとする直前まで少女は気付いた様子を見せなかった。
 ところが、やはり弓ひとつで少女を打倒することはかなわなかった。少女はアンジェリカたちに横顔を晒したまま、寸前に迫った矢を、あっさりと片手で掴んだのだった。
「…………」
 さすがのアンジェリカも言葉を失った。驚きよりも呆れに近い表情をしている。こんなに強いなんて反則でしょ、とでも言いたげな顔だ。
 掴んだ矢を放り捨てた少女は、アンジェリカに顔を向けた。
 クルルには、その動作がひどく遅いように見えた。おそらく死を目前にして思考速度が極限まで高まっているせいだろう。少女の動きが遅いのではなく、自分の思考が速まっているのだ。クルルは恐怖に染まる一方で、そう冷静に自己分析をしていた。
 特に意味のあることではない。アンジェリカの横で突っ立っていることしかできないクルルがどれほど自分の精神状態を把握しようとも、状況の好転は望めない。生きている間は嫌でも思考を止めることはできないから、益のないことを考えてしまう。それだけのことだった。
「あなたが、総大将?」
 初めて聞く少女の声だった。無言のままに斬り捨てられるのだろうと思い込んでいたクルルは、まばたきを一度してから少女を見つめ返した。
「……違うの?」
 返答を得られなかった少女は、僅かに首を傾げた。その仕草には年齢相応の幼さがあった。声もずいぶんと可愛らしい。ただし顔そのものは相変わらずの無表情だ。神懸かり的な戦闘能力を得る代償として表情をなくしてしまったのではないか、とそんな根拠のない想像をしてしまう。
 ただ、顔ではなく少女の物腰に目を向ければ、感情そのものが欠落しているわけではないことは容易に分かった。自分の言葉に反応が返ってこなくて困っているのは明らかだった。
 クルルは横目でアンジェリカに視線を移した。
 アンジェリカはどう答えたものか迷っているようだったが、やがて彼女は堂々とした声を上げた。
「私が盗賊討伐軍の総大将、千人隊長のアンジェリカ=アールストレイムよ」
 適当なことを言って誤魔化す気はないらしかった。彼女のプライドがそれを許さないのだろう。
 クルルは無念に思った。
 仮設テントの中には、この場に似つかわしくない豪華な椅子やベッドが置かれている。テントの主が高貴な者であることは一目瞭然である。加えて、宮廷のお姫様がそのまま飛び出してきたかのように豪華な衣装。
 アンジェリカは総大将などではなく、討伐軍に同行しているだけの好奇心旺盛なお姫様である、で通らないこともないだろう。なにしろアンジェリカはまだ16歳なのだ。見た目だけなら、可愛い女の子でしかない。言い逃れも不可能ではないはず。
 もっとも、アンジェリカがそのような手段を用いないことなど最初から分かっていたことではあった。
 自由奔放な言動をするアンジェリカも、胸中にある王族としての矜恃をたびたび露わにする。それは短所であるとクルルは考えているが、他の王侯貴族に比べれば可愛いものであるし、無理にでも矯正しようとするほど自分の見解が絶対に正しいとも思っていない。
 そもそも、王族としての誇りは彼女の使命感と表裏一体なのかもしれないのだ。自分が王女であることにアンジェリカが何の感慨も抱かなくなったとしたら、兄の愚行に対する憤りや王国に対する責任感が薄れてしまうことも有り得る。それは大袈裟としても、アールストレイム王国の姫であることは、アンジェリカという人間から欠けてはいけない一部分なのだ。
「アンジェリカ=アールストレイム……?」
 武神のごとき少女は、無表情のまま呟いた。何やらアンジェリカ=アールストレイムの名に引っかかるものがあったらしいことが、少女の声から洞察できる。多少の戸惑いも覚えているようだ。少女が表情豊かであるならば、目を丸くしているところであろう。
 アールストレイム。王国と同じ家名。王族かあるいはそれに近しい者であることの証。そのことに少女は気付いたのだ。
 クルルは考えた。王族の血筋はこの状況にどのような影響を与えるだろうか。
 お許しください王女殿下、とひれ伏してくれれば十全だ。そこまでいかなくても、王族に手を出せばどうなるかと思案し始めたならば、もうこちらのものだろう。どうとでも言いくるめられる。
 だが盗賊には王侯貴族を憎む者が少なくない。彼らは自らの汚点を周囲のせいにしながら生きている。下郎に身を落としたのは国のせいであり、討伐によって仲間が命を落としたのも国のせいだ。そのように考えて国を恨む。ひいては国を支配している王侯貴族を憎む。クルルとアンジェリカの目前にいる少女がそうであった場合、状況の改善は見込めないだろう。諦めるしかない。
 さしあたり考えるべきなのは、この少女がアンジェリカを人質にとって、王族であることを利用しようとした時のことだろう。
 盗賊に捕まったら何をされるか分かったものではない。誇り高いアンジェリカは自ら死を選ぶかもしれない。それを阻止するためにはクルルも一緒に人質になる必要がある。
 アンジェリカを守らなけれならないのだから、自らの身の危険に構ってなどいられない。もちろんクルルは死にたくなんてないし、危ない目にも遭いたくはない。特別勇敢というわけでもない。ただ自分のことよりも大切なものがあるだけのことだった。
 クルルは小さく息を吸った。目の前の少女がどういう結論を出すにしろ、それまで待ってやることはない。むしろこちらから話し掛けて、少女の思考を誘導してやるべきだ。そう思い、言葉を発しようとした。
 しかし途中で息を止めることになった。神速の少女がクルルに向かって飛びかかってきたのだった。
 通常なら五歩以上を要する距離を、少女はたったの一歩で詰めようとしていた。少女の右肩近くには小剣が水平に寝かされている。
 小剣を横薙ぎにして私の首を断ち切るつもりだろうか、とクルルは思った。果たして痛みは感じるのだろうか。どうせ殺されるのなら、一瞬のことだとしても、なるべくなら痛い思いはしたくない。これだけ速ければ大丈夫だとは思うけれど。それにしても速い。認識できるのが不思議なくらいだ。いつだったか、白兵戦の最中に間近で矢を射られた時のことを思い出す。反応すらできないような速度。あの時は運良く外れたが、今回はそんな幸運を期待しても無駄だろう。
 ほんの僅かな間にクルルの脳内を様々な思考が駆け巡る。
 少女はすでに息の届きそうなところまで接近していた。クルルは死を覚悟した。心残りはもちろんある。それはやはり……。
 アンジェリカに目を向けようと思った瞬間、クルルの思考は断ち切られた。

 以前から思っていたことがクルルにはあった。姫様には信じるに足る何かがある、と。
 信じるに足る何か。抽象的に過ぎる言葉だが、そう表現するしかなかった。この人なら何だってできるという信頼。それが願わくば姫様への尊敬とか愛情とかそういった感情からくるものではありませんように、とクルルはいつも祈っていた。
 たとえば……そう、人望。
 できることなら姫様の人望からくるものであってほしい。それならば、自分だけでなく、他の人も姫様を信じるようになるだろう。姫様が自勢力を作っていくのにもかなり有利に働くに違いない。
 もしも自分の無条件の信頼が個人的な親愛の情からくるものだったら、他の人にはそう簡単に芽生えることはない。それでは困るのだ。
 まあ、もっとも、どちらにしたところで、姫様が歴史に名を残す女王となることは間違いないのだけれど。クルルはそう確信している。とはいえ、何事にも道程というものがある。なるべく不安要素には消えて欲しい。
 いや、まあ、結果は分かっているのだけれど。
 姫様は名君として後世に語り継がれていく。
 決まりきっていることだ。
 人々を幸せにして、誰からも好かれる優しい女王になるのだ。
 自分はそれをずっと側で見ていく。
 姫様を補佐しながら。
 いつも隣で。
 なのに。
 それなのに。
 昏倒してから3時間後に目を覚ましたクルルは、アンジェリカが拉致されたことを知らされて呆然となった。
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